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「……。…すえ、本当に分からな――」
バタァン――っ
「ちょ、ユキちゃん?! どうしたの?! ねぇ!!」
すえへと向けた視線が反射的に騒ぎの方向、そちらに移り変わった。
「…詩代…?」
悲鳴に近い声。しかし。
(――ここからでは何も見えない)
舌打ちしたいのを抑えて慌てて台所に飛び込むと、そこにはぐったりとしたユキを両腕に抱きかかえて床に座り込んでいる詩代がいた。
「詩代、どうした―?!」
「より…!! ユキちゃんが…ユキちゃんが……。突然倒れちゃって……」
「大丈夫。大丈夫だから。な? ユキは妖怪だからそう簡単に死んだりしないから。とりあえず落ち着いて」
今にも泣き出しそうな詩代の頭を軽く撫でると、よりは末継(すえつぐ)に彼女を託して床に寝かせられたユキの傍で片膝をついた。
「晴明、なんか分かったか?」
先にユキの様子を見ていた晴明は、その言葉に顔を上げると苦々しげに眉間に皺を寄せた。
「…熱がある」
「……ぇ? …でも、雪女、ってか妖怪って風邪引かないんじゃ……」
「あぁ、そうだ」
至極当然という様に頷いてみせる晴明。
「――じゃあどうして…?」
「いいか、より。よく見てろよ」
胡乱感を露わにしているよりに一つ視線をやって、雪女の身体の上に片手をかざす。
晴明が片手をかざすと、ユキの身体が仄かに光り始めた。
「…な……っ」
――信じられない、とばかりに目を見張る。あのユキの身体が…内側から光ってる……。
そうして間もなくすると、ユキの身体から一枚の紙切れが浮かんできた。
紙切れは徐々に実体を持つと、かざされていない晴明のもう片方の手によって捕らえられた。
無造作に掴んだそれに目を通すと不意に晴明はすっくと立ち上がり、膝をついたままの よりに目を向けた。
「より、行くぞ」
「…は……? どこに?」
思考が彼の言葉に付いていかなくて間の抜けた声が零れた。
「そりゃあ、雪ん中に」
「…………は? いやいやいや。なんでわざわざ寒いとこに――」
「その雪女を休養させんのに送ってやらなきゃいけんだろ」
「…あぁ……。…ん……。確かに…」
筋の通った発言に確かに、と頷く。寒いのは嫌だが…病気の彼女が最優先である。
「それに」
ぽつりと呟いた晴明の声に視線を向ける。
「ちょっくらやる事も出来たしな」
片目をすがめた晴明は、小さく肩をすくめながらも薄く微笑んでいた。
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