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ヒュオオオオ――…!!
「寒っ…!! 何、この寒さ…。……尋常じゃないんだけど…」
マフラーに顔を埋めて目だけで周りを見回す。
――同じ街とは思えないほどの寒さ。その昔、とても強い陰陽師によって作られたというこの森の結界は一歩入るか否かで気温に天と地ほどの差がでる。…らしい。
(――なんで今まで知らなかったんだろうな…。こんな極寒の地のこと)
上手く噛み合わない歯をガチガチと鳴らしながら横に立つ二人を見ると、二人は全く平気そうな面もちで何事かを相談していた。
(………人間じゃねぇ…)
自分なんて、少しだけ出ている肌(―つまり顔もだが)に吹雪が、冷気が、突き刺さって痛みさえ感じているというのに――。あの二人ときたら風のないポカポカ陽気の中に居るみたいに話しているのだ。
――全く、信じられない。
気味悪げに見ているよりの視線に気づいているのかいないのか、首を回して何かを見つけたらしい晴明は遠くの方を指差した。
その口が何か言葉を紡ぐ。
(あ・そ・こ・だ…?)
そして向けた目が見つけたのは、吹雪で見づらいが確かにある少し大きめの洞だった。
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「さ…む…。さむぃ……。し、死ぬ……」
吹きさらしではないから外よりは幾分かマシではあるものの、やはり洞の中も信じられないほどの寒さだった。
――ユキにとってはこれが適温なのだ。…改めて人間と妖怪(雪女)との違いを実感した瞬間だった。
「より~、情けないぞ~」
「…ぅ、るさい。人間離れしたお前に言われたって……」
生まれたての小鹿の如くプルプルと震えながらも反論すると、笑いを堪えているような晴明の手が伸びてきて、よりの腕や背にそっと触れて離れた。
――途端、今までの寒さが嘘のように身体がホワリと温かいモノに包まれたような感覚があって、すぐに指先まで温かい血が通い始めた。
ホッと肩の力を抜きながらも、頭の隅に芽生えたある予感に眉を寄せる。
「…晴明」
「ん? …あぁ。それ、知ってると思うけど見えない符な。寒さから身を守る符なんだ」
その瞬間、予感が確信に変わった。
「…晴、明~…?」
「あれ、より。怒ってんのか?」
ニヤリと片方の口端を上げてみせる晴明。
ブチっ。
頭の中で何かが千切れた音がした。
「てめぇ~ら!!!! ど~りで平気な顔してるはずだよな!」
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