1st

45/45
82人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
部屋に帰って早々にお風呂の準備をした零が私に声を掛ける。 「いいよ。零が準備したんだから、先に入って」 「疲れてるだろ? 俺は大丈夫だから」  気を利かせてくれたのか――意外とこの男、侮れない。 ルックスも然ることながら、気遣いも初めて会ったときから、ずっと……いや、あれは気遣いなのか? 少しだけ悩んで、零の気遣いを受け入れた。 「じゃ、先に入るね?」 「覗かないから、安心して」  いい笑顔なのだが、何かと一言多い。それが難点。  お風呂を上がり、寝る準備を手早く済ませる。 私の後に浴室に向かった零は、まだお風呂から上がってこない。 その間にトランクの中から、お昼寝用のイ草枕を取り出し、ベットの上へ投げる。 ――ベッドの上で抱いて寝るくらいなら、零も大丈夫だよね。 零がお風呂から上がるのを待たずにベットに潜り、投げた枕を抱えると、眠気が一気に襲ってきた。 鼻を擽る”家の匂い”。 まだ居心地の悪いこの場所を、心地の良いものへと変えていく。 そのまま何も考えず、徐々に深くなる気怠さに意識を預けた。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!