臆病と沈着。

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夕暮れ時。アスファルトが赤みがかり、影も伸びる。 人通りの少ない道を肩が触れ合いそうな距離で歩く。 何を話すでも無くただ自宅を目指して歩くだけ。 ちらりと相手を見上げる。自分よりも15センチは高いだろう身長。 何を考えているか分からないような無表情。 言葉にし難い感情が胸の中をぐるぐると巡る。 好きだ。口にしてしまえば何かが変わるのだろうか。 それは始まりか終わりか。分からないから口に出来ない。 別れ道が見え、もうお別れかと肩を落とす。 今日も何も言えなかった。溜息がひとつ零れた。 立ち止まり、相手を見上げる。彼もまた、俺を見下ろす。 自分の思っていることが伝わればいいのに。 そんなことを考えては顔に出さないように笑顔を作った。 「じゃあ、また明日な。」 そう言って、彼に背を向けた。
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