臆病と沈着。

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何故だか泣いてしまいそうだと、目をぎゅっと瞑る。 離れたくない。頭の中で叫んでみてもなにも変わらない。 重い足を持ち上げてさっさと家に帰ろう。 帰って存分に泣いて、そうしたらすっきりするから。 酸素を飲み込み、一歩踏み出す。 刹那、手を掴まれてその一歩が消えた。思わず振り向く。 きっと今の俺、泣きそうな顔してる。 でも彼がどんな意図で俺を引き留めたのか、知りたくて。 見上げた彼は困ったような顔をして、頭を掻いた。 「今日は、もう少し、一緒にいないか。」 意図は分からない。でも、ただ嬉しいことだけは分かる。 別の意味で泣きそうだ。どうしよう。嬉しい。 嬉しくて、嬉しくて。俺は何度も何度も頷いて。 そうしたら彼は笑ってくれて、ふわりと、柔らかく。 心臓の辺りがぎゅってなって、なんだか泣きたくなって。 でも温かくて、幸せで、どうしようもなく彼が好きで。 俺は、思わず彼に抱きついた。
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