臆病と沈着。

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彼は驚いたように体を揺らした。 ごめん。ごめん。抑え切れなくて、離れたくなくて。 聞こえるか聞こえないか、それくらいの小さな声で。 「…好き、」 聞こえただろうか。彼の耳に届いただろうか。 彼は気持ち悪いと思ってないだろうか。 こんな俺を、受け入れてくれるだろうか。 言ってしまった後悔と、言い切った安堵と、この先の恐怖と、ほんの少しの期待と。 頭の中がぐるぐるになって、何も考えられなくて。 ただ、彼に触れているこの時間が愛しくて。 全て崩れてもいいと思ってしまう。 彼の手が、俺の肩に触れて、離れて、困ったように俺をそっと抱き締めた。 心臓が五月蝿いくらいに騒ぐ。どうしよう。幸せだ。 今なら死んでもいい。泣きたい。泣く。泣いちゃう。 ゆっくりと顔を上げた。彼は、視線を彷徨わせた後、小さく笑って。
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