臆病と沈着。

6/6

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
夕焼けが俺らを照らして、彼の顔しか見えなくて。 それは夕焼けの所為じゃあない気がするけど、それくらい彼しか見えなくて。 俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた彼は、俺の耳元に唇を寄せた。 「ずっと、俺のそばにいて。」 低くて心地良い彼の声。 腰も引き寄せられては何も言えなくて、ただ何度も頷いた。 そして彼の顔が近付いて、唇がまた触れ合って。 心臓が五月蝿いくらいに騒ぐ中、未だに俺の頭は真っ白で。 幸せを噛み締めては、彼にぎゅっと抱きついた。 先まで触れ合わなかった影は、この数分で重なり合った。 小さなものと大きなものは、重なっては離れ、重なっては離れ。 最後に一度深く重なり合えば、愛しさと幸福を残して離れた。 「また明日。」 幸福を抱えて手を振る少年と、幸福を秘めて小さく手を振る少年。 幸せだと、どちらともなく吐息混じりに呟いた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加