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「玻璃月様、お茶をお持ちしました」
紫苑が湯気の立つ湯呑みを文机に置いた。
開け放った庭を見つめる。
「桜、蓮華、牡丹…この庭は、たくさんの花が咲きますね」
「そうだね…」
「俺はあんまり花の名前も詳しくないですが、この庭は美しいですね」
紫苑の精悍な横顔が眩しい。
あの日の芙蓉とどこか重なる。
「紫苑…ここに来て、良かったかい?」
紫苑は振り向くと、爽やかに笑った。
「俺も蘇芳も、ここに来れて良かったですよ。俺たち二人とも、ここに来る前はまともに生きてすらいけなかったから」
「あぁ…そうだったね」
思い起こすのは三年前。
どういった経緯かは分からないが、紫苑と蘇芳は瀕死の状態でこの庭に倒れていた。
犬と狼の妖であったため、妖の医者に看てもらい命を取り止めた。
今でも二人はそのことに恩を感じ、ここにいる。
なぜ瀕死だったかと深く問い詰めたことはない。
彼らが自分を必要としてくれて、自分もそれに安堵している。
その関係だけで充分だった。
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