花骨牌

2/5
前へ
/16ページ
次へ
「玻璃月様、お茶をお持ちしました」 紫苑が湯気の立つ湯呑みを文机に置いた。 開け放った庭を見つめる。 「桜、蓮華、牡丹…この庭は、たくさんの花が咲きますね」 「そうだね…」 「俺はあんまり花の名前も詳しくないですが、この庭は美しいですね」 紫苑の精悍な横顔が眩しい。 あの日の芙蓉とどこか重なる。 「紫苑…ここに来て、良かったかい?」 紫苑は振り向くと、爽やかに笑った。 「俺も蘇芳も、ここに来れて良かったですよ。俺たち二人とも、ここに来る前はまともに生きてすらいけなかったから」 「あぁ…そうだったね」 思い起こすのは三年前。 どういった経緯かは分からないが、紫苑と蘇芳は瀕死の状態でこの庭に倒れていた。 犬と狼の妖であったため、妖の医者に看てもらい命を取り止めた。 今でも二人はそのことに恩を感じ、ここにいる。 なぜ瀕死だったかと深く問い詰めたことはない。 彼らが自分を必要としてくれて、自分もそれに安堵している。 その関係だけで充分だった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加