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思い通りにならない彼女が好きだった。
「いつまでそうして見ている気だ」
眉間に皺を寄せ、彼女がこちらに問いかける。
元が美女なだけあって、怒った顔はぞくぞくするほど美しい。
「…君が中に入れてくれるまで」
季節は冬。厳しい寒さの中で立っていた。もちろん、あまり寒さは感じないが。
「…卑怯な奴だ…」
苦々しく呟くと、彼女は母屋の襖を開け、くるりと踵を返した。
それを許可と受け取り、中へと入って行く。彼女の好む香に包まれ、そっと息を吐いた。
「…ま、玻璃月様」
焦るような声に目を覚ました。
幸せな温もりは、瞬時に姿を消してしまう。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…紫苑か」
ゆっくりと身体を起こすと、部屋の隅で蘇芳も心配そうな顔で様子を伺っていた。
「大丈夫、少し深く…眠っていただけだよ」
鬼である自分が亡者の夢に囚われるとは。
自嘲してみるも、甘い感触が肌に染み着いて離れない。
彼女の名は、芙蓉と言った。
長い黒髪に睡蓮の袿が良く似合う、凛とした女性。
高飛車で余裕に満ち、しかしその内に秘めるたおやかな女性らしさが魅力的だった。
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