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――初めて会ったのは、厳しい冬のさなか。
まだ私には紫苑も蘇芳もそばにいなかった。
しんしんと降り積もる雪の中、一人でいるのは身が裂かれるより辛かった。
ほんの気まぐれに、人の住む都へと足を踏み入れた。
鬼としてまだ未熟だった私は、目立つ髪と角をひた隠しにして都を歩いた。
するとある屋敷の前で足が止まった。
美しい笛の音色が屋敷から聴こえてきた。
繊細で芯が強い…心掻き乱されるその音色に、気づけば屋敷の塀をふわりと越え、中に入っていた。
鬼灯に、寒椿。
真っ白な雪の庭で、ささやかに映える色が美しい。
「何者だ」
庭に魅入っていると、女の声がした。見れば燈籠の明かりに背中から照らされた美しい女性が立っていた。
「賊か」
「……違う」
ゆるりと首を横に振ると、女性は浅く笑う。
「だろうな。賊にしては、目立ち過ぎる」
ははっ、と笑う彼女に完全に魅入っている自分がいた。
「あの…名は」
「…芙蓉だ。お前は?」
「…玻璃月」
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