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「悪いが、俺は行かない」
思ったことが声に漏れていた。
「理由を聞いていいか?」
ブリュンヒルデは俺に問う。
「………」
理由…か。
言えない。言えるわけがない。
母が死に妹も死んだ。
誰のせいでもない、この俺のせいで。
「答えぬか。ならば選べ。ここで死ぬか、私と来るか」
剣を抜き、俺に突きつけた。
そんなもの、答えは一つだ。
「……殺せ」
「何故、だ?何故、死を選ぶ?」
ブリュンヒルデは思っていた答えと違ったのか、目を見開いて、突きつけていた剣を震わせていた。
「今の俺は命など惜しくない、さぁ、殺せ」
俺はブリュンヒルデに殺めろと告げた。
「何故、そこまで生きることを拒む」
「……お前に………お前なんかに、俺の気持ちがわかるかっ!
俺が留守の間に母も妹も殺された!
俺の“生きる意味”を根こそぎ持っていかれた!
今の世界に生きようが、母も妹も失った俺は、死んでるも同然だ!」
俺はブリュンヒルデに怒鳴っていた。
自分のせいなのに…
他人に当たっていた。
「なら………なら、私はどうしたらいい!?
父も母も兄も目の前で殺され、私を慕っていた部下も守護するべき第一黙示録も守れず、次々に死んでいく民の盾になって逃がすこともできず、逃げていた臆病者な私に生きる価値など……」
……俺は耐えきれず、言葉を遮り、抱きしめていた。
凛々しかった瞳は涙で濡れ、しなやかだった黒髪は枯れ草のように萎れ、身体中を震わせて嗚咽を漏らしていた。
強がっていなければ、すぐに崩れてしまうほど脆く可憐な娘だった。
ブリュンヒルデは必死に“生きる価値”を探していた。
失った、家族、部下、民。
その場にいたんだ。
この濡れた瞳には今も焼き付いているであろう、残酷な地獄絵図。
たった一人。
俺が生きていてどれだけ支えになったかはわからない。
けど、嬉しかったからトーンが変わったんだ、俺を死なせなくなかったんだ。
生きる意味……
俺はこんな脆く可憐な娘を見て思った。
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