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ふと視線を店内で買ったばかりの駄菓子を食べる子供達の方へ向けると、美味しそうに駄菓子を頬張りながら何か元気よく話している。
所々入ってくる内容からして学校であった事や、この辺りに流れる小さな川でザリガニがよく取れるらしいから行こうと言う話の内容。
小学生らしい遊び方と思われるかもしれないが、実のところ、こういう事しか遊ぶものがない。
ザリガニ取りや鬼ごっこ、隠れん坊、虫取り。
夏は川遊びや山遊び。
今の時期は梅雨と言う事で山は雨のせいで泥濘が酷いから子供の立ち入りは制限されている。
たまの晴れになれば子供達は待ってましたと言わんばかりに外に出て、水たまりを踏んで走り回り、出来る限りの遊びを楽しむ。
この村の事しか知らない私達にとって、この村が全て。
村の外の子達はどんな遊びをしているのか。
私達と同じかもしれないと思いながらもどこか違ってほしいと思っている節もある。
憧れ、と言ってしまえば簡単。
興味があるのだ。
「なぁ千恵ちゃん」
1人の小学生が私の向かって名前を呼んだ。
市村千恵。
それが私の名前で、駄菓子屋にやって来る人達は私の事を「千恵ちゃん」と親しみを込めて呼んでくれる。
私自身はこの千恵という名前をあまり好んでいない。
見たこともない亡くなった曾祖母は大層出来た人だったらしく、10年も前に亡くなった祖母がその縁にあやかって私が生まれた時に迷わず曾祖母の「千恵子」と言う名前から「子」を抜いて「千恵」と付けただけだから。
顔も見たことがない、どう出来た人かも分からないような人の名前に御利益を得ようだなんて付けられた本人からしたらあまり良い気はしない。
何よりも気に入らないのは私の名前の由来となったその曾祖母が熱心な丙神子信者だったという事。
亡くなった曾祖母きっと、自分の名前の一部を付けた曾孫が丙神子を信じていない事で嘆いているだろう。
そんな私の名前を呼んだのは毎日来る常連の山本さんの家のやんちゃ坊主。
丸坊主の頭にどこでぶつけたのか分からないけど、かさぶたになりかけの小さなぶつけ傷を付けている。
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