君を殺すまで。

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君の首筋に人差し指をゆっくりと走らせて君の一番、温かくそして太い血管を探した。 君と触れられる時間はすぐに過ぎ去って僕は血管を見つけ出した。 少しの時間。 君を見つめた。 既に目を固く閉じた君の瞳はもう二度と僕とは合わないだろう。 「ごめんな」 この言葉は残酷だ。 躊躇は悪で 懺悔も悪だ。 同情も、感謝も、謝罪も。 今から殺される君にはただの悪だ。 僕は握るナイフの切っ先を君の首元にゆっくりと持っていく。 ごめんな。 それでも僕は君に謝る。 これは少しでも、ほんの欠片でも。 罪悪感から逃げたい僕の我が儘だ。 一つ息を吐き出して、 口に残ったつばを飲み込んだ。 僕は鋭く尖ったナイフを力強く君の首筋に押し付けて素早く手前に引いた。 顎骨に当たった鈍い手応え。 微かに君が動いた時に舞った羽毛の匂い。 傷は浅い。 そんなに簡単には動脈は切れはしない。 僕は暴れる君の首を強く持ち、数回にわたってナイフを動かした。 力を一度目よりも強く二度目を 二度目よりも強く三度目を 一秒でも早く。 君のことを殺す為に。 君を押さえた左手は真っ赤に染まった。 君を殺した右手は微かに震える。 もう君はその目を開けてはくれないのだろう。 もう君はその喉で歌ってはくれないのだろう。 君は大空へ飛べたのだろうか? ふと、見上げた空は雲一つなく、とても高いものに思えた。 いくら僕が手を伸ばそうとも、届くはずがない空。 そんな空はどこか寂しく思えて。 微かに熱くなった目元を肩で擦った。 目線を血溜まりにいる君へと落とした。 いつの間に僕はナイフを地面へとおいたのだろうか? 「ごめんな…。出来れば僕を許さないでくれ」 心の中で呟いた言葉に君の返事はない。 僕は生きて、君は死んだ。 冬の近づく冷たい風は僕の前髪を揺らす。 気づくと右手の震えはなくなっていた。                   end
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