限界を超えた限界

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戦場から全戦力の撤退。一見すれば判断ミスに見えるが、相手の戦力が未知数である以上、無駄な戦力投入は避ける必要がある。特にエイジェン所属の機体は既存のブラストランナーとは性能差が有りすぎるため、数で圧すような戦術は取れないのだ。 この緊急事態に対するマグメルの対応は迅速だった。戦域に近い位置で活動中、もしくは待機中で万全のボーダーに非常召集をかけ、現地へ派遣する。その中に、サウス・バニングとデボラ・Bが居た。 『まさかお前が喚ばれるとはな』 『自分でもビックリです…』 輸送機の中はピリピリとした空気が漂っていて、いつもなら適当なボケをかますデボラも緊張していた。相手は通常のブラストランナーの倍近い性能をした、言わば怪物だ。たとえ技術に差があっても、ブラストの規格である以上、よっぽどで無い限り勝てる見込みが出てくる。しかし、今回の敵は乗り手も機体も規格外の集団ばかりで、更には小型の無人機も居るらしい。話しか聴いたことのない人間には、興味と恐怖の混ざったような不思議な緊張感である。 かく言うバニングも、実際に対面するのはこれが初めてだ。前々から写真やら何やらで確認していたが、スペックに関しては完全に未知数の世界だ。ちょっとした油断が命取りになるこの稼業で今まで以上に注意を払う必要があった。 『作戦参加の皆さん。マグメルのフィオナです』 全輸送機に無線が繋がる。 『緊急事態につき、マグメルが臨時に指揮を執る事になりました。相手の戦力は未知数ですが、皆さんならやれると信じています…。皆さんの活躍を心から期待します。御武運を』 輸送機のハッチが開き降下態勢に入る。EUSTの輸送機に積み込まれたバニング達は自分達の後続にGRFの輸送機が続くのが見え、事態の異常さを改めて実感する。 降下直前、バニングとデボラのHUDに何やら番号のような表示が現れる。 『なお、今作戦では《マグメルⅠ》に現場の指揮。私が後方からのサポートになります』 名前ではなくコールサインでの呼称。軍隊ならよくあるやつだ。ちなみにバニングは《マグメルⅣ》、デボラは《マグメルⅧ》だ。 『機体チェック完了。マグメルⅣ、出る!』 『ブラスト起動。マグメルⅧ、行きます!』 混沌の戦場へ、次々と《連合軍》が降下する。
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