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朝昼兼用のランチをブラストランナーが多数格納された格納庫前のベンチで取るデボラ。ランチ、と言ってもバナナ一房とコーヒー牛乳一本と、ランチよりおやつみたいなメニューだが。
『あなたねぇ…』
偶然通りかかった黒髪の女性、クゥエルが、あまりにシュールな光景だったため耐えきれずツッコむ。
『仮にも乙女がこんな油臭い格納庫の前で、ツナギのチャック半開で、ベンチにふんぞり返ってバナナを頬張るって、どんな光景よ』
『これクゥさん、《仮にも》じゃなくて乙女だから。一応、私も乙女だから』
『それでも《一応》なのね』
一通りツッコむとクゥエルは手にさげたビニール袋をちらつかせる。無言でデボラがずれ、無言でクゥエルが座り、袋の中からサンドイッチを取り出す。なんだかんだ言いつつ、クゥエルも油臭い格納庫の前でランチを取り始める。
謎の武装組織が人類相手に宣戦布告してから幾日、ニュード採掘施設を襲撃する事態がポツポツと発生するも、不思議な事に全く手応えがないのだ。採掘施設に送り込まれて来るのは、ブラストランナーの胴体くらいの大きさをした小型の自律兵器ばかりで、それも大して驚異ではない。まるで射的の的である。
『なんというか、思ったより平和よね』
エイジェンの出現で世間はパニックを起こすと予想していただけに、クゥエルは変わり映えのない日常に少し拍子抜けだった。
『まぁ《平和》って言うとちょっと語弊があるけどね』
『まぁ…ね』
苦笑いをこぼし、サンドイッチを頬張るクゥエル。確かにGRFとEUSTのニュードを巡る紛争の最中であるが、クゥエルやデボラ達みたいなボーダーにとって、戦闘はもはや日常の一部同然だ。それだけに戦闘の激化を覚悟していたクゥエルは従来と何ら変わりない日常が不気味でもあった。
『クゥ、今日は出撃?』
『いいえ、非番だけど?』
『お、丁度いい。スッチーその他数名とカラオケ予定してるんだけど、来る?』
なんとも平和な会話。しかし、いつこの平和が崩れるか分からない。平和なうちに、こんな普通のイベントを謳歌しても、罰が当たることは無いだろう。
『いいわね、行く。…それはそうとデボラ』
『?』
『今のあなた、まるで某ガチホモみたいよ?』
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