博物館の守護者

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ここは博物都市『シルフィガーデン』の端、ブロンズ通り。 小、中規模の博物館がいくつか建つ他は、主に民家や商店がほとんどを占める。 煉瓦と石を使った造りと、活気ある町並みは19世紀のヨーロッパの商店街を思わせる通りだ。 そんな日溜まりを体現したような町に一人、小難しい顔をした男がオープンカフェにいた。 『シルフィガーデン案内ガイド』なる地図を机一面に開き、指で道をなぞっては顔を上げて辺りを見回す。 彼は迷子だった。 理由は簡単、裏道から近道をしようと試みて失敗したのだ。 彼は安藤 進(あんどう すすむ)。 晴れてこのシルフィガーデンのとある博物館に警備員として就職が決まったのは先月の事。 今日がその記念すべき初出勤だった。約束の時間は午前10時。現在時刻は午前9時45分。 「完全に遅刻だ……」 彼がこの都市に来たのは、初めてではないが、入り組んだ迷路のようなこの商店街を裏道から抜けるのは、長年暮らす住民ですら至難の技である。 途方に暮れた彼は来た道を戻る事も難しくなり、現在地を探すことにした。 しかし焦りから思うように作業が進まない。 脳みそも汗をかくような感覚に見まわれながらも、必死に足掻くのだか芳しい結果は得られず。 腕時計は9時50分。やがて彼はひとつの結論に行き着く。 「……仕方ない……」
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