1人が本棚に入れています
本棚に追加
ここは博物都市『シルフィガーデン』の端、ブロンズ通り。
小、中規模の博物館がいくつか建つ他は、主に民家や商店がほとんどを占める。
煉瓦と石を使った造りと、活気ある町並みは19世紀のヨーロッパの商店街を思わせる通りだ。
そんな日溜まりを体現したような町に一人、小難しい顔をした男がオープンカフェにいた。
『シルフィガーデン案内ガイド』なる地図を机一面に開き、指で道をなぞっては顔を上げて辺りを見回す。
彼は迷子だった。
理由は簡単、裏道から近道をしようと試みて失敗したのだ。
彼は安藤 進(あんどう すすむ)。
晴れてこのシルフィガーデンのとある博物館に警備員として就職が決まったのは先月の事。
今日がその記念すべき初出勤だった。約束の時間は午前10時。現在時刻は午前9時45分。
「完全に遅刻だ……」
彼がこの都市に来たのは、初めてではないが、入り組んだ迷路のようなこの商店街を裏道から抜けるのは、長年暮らす住民ですら至難の技である。
途方に暮れた彼は来た道を戻る事も難しくなり、現在地を探すことにした。
しかし焦りから思うように作業が進まない。
脳みそも汗をかくような感覚に見まわれながらも、必死に足掻くのだか芳しい結果は得られず。
腕時計は9時50分。やがて彼はひとつの結論に行き着く。
「……仕方ない……」
最初のコメントを投稿しよう!