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「願った通りに進めることは、難しいね」
「それはそうでしょう。でなければわたし一人、こんなに長生きはしてません」
「だけどこれじゃまるで出口のない迷路みたいだ。どれだけ進んでも、その先にあるのは袋小路」
「あるいは天国への階段、でしょう。下が見えないまで登っても、その先にあるのは只の幻想」
自分は生物として、人間として欠陥なんじゃないか、と考えたことがある人はそう少なくはないと思う。もちろんこの命題の提唱者である僕は考えたことがあるし、今頃近所のマクドナルドでアルバイトに励んでいる彼女や、大事な試合でミス連発して負けてしまったテニスプレイヤーの彼だってもしかしたらそんなことを考えたかもしれない。もっとも、その二人の感じる欠陥とやらは僕やその他大勢のほとんどの欠陥とはまた違うものなのだろうけれど。
全てが同じなんて、ありえない。
だって完璧な人間なんて、いないんだから。
例えば世の中では、誰しもに長所があって短所があるのが人間なのである、とよく言う。それこそ十人十色というか──個性なのだ、と。これはまあ、ある意味では──否、大半において間違いではなくて、だからそんな劣等感は、大抵の場合、時間の経過と共に氷解していく。才能の欠如も、情熱の欠如も、様々な言葉に置き換えられた欠陥部品は一つとしての例外もなく。
「けれど、それは──」
だけど、それは。
最古にして最後の魔法使いである彼女はそう言った。
「それは結局のところ、本人が生んだ欠陥でしかないんですよ。だからこそ、時の流れと共に頭の奥隅にどんどん追いやられて、やがて忘れ去ることができるんです」
──それはいわば、一に成らなかった零を嘆くだけの行為なんです。
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