第一章

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 成れなかったではなく、成らなかった。  スタートラインから一歩踏み出せなかった。  だから欠如ではなく、不変。  それはただの、現状維持。 「だから、それは欠陥と呼ぶべきではないでしょうね。そんなのは思い上がりの勘違いです。 言い換えれば思い違い、見込み違い、錯誤、錯覚でしょう」  彼女はやや自嘲気味にそんなことを言ってきた。その台詞はともすれば『欠陥』という言葉が良いものであるかのように聞こえないでもなかったが、それは彼女の意図するところではなく、単純に『欠陥』という言葉で片付けないで頑張れ、といった主旨の発言だったのだろうけれど、とちらにせよその時の僕としては理解できた部分が半分、納得できないところが半分といったところだった。その理解できた半分でさえ、大半は咀嚼して呑み込むことができなかったけれど。    だけど、だからこそ僕は、彼女に疑問を投げ掛けたのだった。 「一に成らない零を勘違いというなら、零に成れない欠陥はなんと呼ぶべきなんだ?」 「そんなこと、決まってます」  彼女は溜め息さえつかずに言った。それは彼女にとってあまりにも当たり前のことだったからだ。 「それは致命傷、というんですよ。時間の経過ではどうしようもない、構造としての欠陥──」
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