第一章

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 まあ、これも簡単。朝起きた時、目覚まし時計はセットされていなかったからだ。しかしこの理由については今からどう理屈を付けたところで、後付けしたところで、結局のところ因果応報というか自業自得に収まってしまいそうである。そこから少し遡ったところで、せいぜい『昨日見てたテレビが面白かったので思わず目覚まし時計をセットしわすれましたー』ぐらいにしかならない。  それはよくない。看過できまい。  なぜなら僕は今──まあ言っていなかったけれど──要するに言い訳を考えているからだ。つまり、遅刻したのは僕のせいではないんですよ、とカズハに対して論理的に説明するための手段を模索しているのである。まあ言ってみれば甚だしいまでの責任転嫁だ。小さいと言われようと甘んじて受けよう。だけどそもそも僕は目的のためには手段を選ばない男なのだ。 「……とは言っても、今困っているのは手段の方が選ぶほどに無いからなんだけど」  目的のためには手段を選ばない。  ここでもう一つ例を挙げてみるが、先ほど登場したA君(というかほとんど僕だ)。彼が遅刻した原因は、まあ知っての通り寝坊によって電車に乗り遅れてしまったからなのだけれど、この時点ではまだ選ぶべき手段は、一通りや二通りレベルではなく、言うならば“無限通り”あったはずなのだ。  それは何故かというと、目的の方がまだ定まっていないからである。こここそが僕とA君の最大にして唯一の違いなのだけれど、電車に乗り遅れたA君が、駅のホームで右往左往している内に僕の方は早々に、次なる目的を定めてしまったのである。  それは例えば、電車に頼らない登校方法を今から考えることだったり。  それは例えば、この僕のように遅刻自体をどうにかしようと(誤魔化そうと)画策することだったり。  ともかく、そんな感じの目的。  つまり『それはできる、それをやる、と決断せよ。それからその方法を見つけるのだ』という、かの有名なアブラハム・リンカーンの名言をそのまま実行した形になるのだけれど、僕にとっての誤算はその先にあったのである。
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