第一章

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 すなわち二点を結ぶ直線は一本しかない、という問題だ。  僕と、選択した目的。それを結ぶ手段。  まあ簡単にいえば、電車に乗り遅れたことを嘆いて踞っていてもなにか事態が好転はするはずはない、という問題。  これはなにも『下を向かずに前向きに行動しろ』といった教訓的な意味を含んだ言葉ではなく(今の僕にそんな余裕はない)、もっと後ろ向きな、その、なんというか“どれが正解か分からない”という意味での言葉なのだけれど。  まあ限りなく正解に近い例えを挙げれば、というか現在の状態を誤解のないように説明すると、僕は今、かなり迷っていた。困っていた。  遅刻した原因を論理的に説明し、かつ全くといっていいほど僕自身に非のないよう相手の思考を誘導し得る唯一解が、はたしてなんなのか、僕が今ここでどんな行動をとればその答えにたどり着けるのか、全く分からないでいたのである。  もはや一周どころか三周ほど回って『そんなものが果たして存在するのか?』と自問する迄に至っていた。  そして、こうなるともう末期だ。問題が解決していないのに、それを棚上げして別な問題を解決することでカタルシスを得ようとする。これではもう負のスパイラルである。  しかし、どうにかしようと気持ちを奮い立たせて目の前の問題に取りかかるけれど、一向に良い案は浮かばない。これがリアルなのだ。現実なのだ。  というか、あまりに考えを詰めすぎて、もういっそここで小躍りしてみたら何か変わるんじゃないか、とかいやいやどうせなら一曲歌ってみようか“どうせ誰も居ないんだし”、とかとうとうそんな破滅的な事を考えはじめていたのである。  “誰も居ない”。  だからこそ、何の気もなしに使ったこの言葉が“結果としてほとんど正解みたいなものだったのだけれど”、この時の僕がそんなことを知っているはずもなかった。もっと言えば僕は、“知らないということさえも知らなかった”。  「────」  ──異質な音に、僕は振り返る。  違う。これは僕の足が土をにじった音だ。  僕が聞いたのは、そんな雑音じゃない。    まるで、違う。  まったく、違う。  なら、僕は何を聞いた──?  
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