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彼女の細い手が、ぺしりと僕の手を払う。
今の僕の状況を正確に描写した場合──。
──そんな端から見れば可憐そのものの少女に向かって、少女に向かって、他ならぬ僕は、なんとあろうことか手を伸ばしていたのだった。触れてないからギリギリセーフと言えないこともないかもしれないないが、そんな言い訳、してる時点ですでに終末感が漂っている。ほとんど終わってるも同然だった。
ゆっくりと立ち上がり、こちらを向いたままジリジリと後ずさる少女。……あー、これは知ってる。野生の動物と遭遇した時の対処法だったと思う。でも、なんで今やるんだろう。もしかしてこの子、変な子なんじゃないか。もちろんそんなわけないが。
空まで透けそうな、青い瞳が僕を見つめる。当然ながら彼女よりも僕の方が随分と背が高いワケで、彼女が正面から僕を見据えると、自然僕を見上げるかたちとなる。けれどそれは上目遣いといった生易しいものではなく、どちらかと言えば三白眼。おもいっきり、全力全開フルスロットルで睨み付けてる感じだった。
「……いやいやいや。もしかしたら君はとんでもない勘違いをしているかもしれないけど、それは違うんですよ? ほら、少し落ち着いてごらん。ちょっと僕の話を聞いてみないか」
「まあ話くらいならいいですよ。では少し行ったところに交番がありますので、そこで座ってお話ししましょう。立ち話もなんですし、ね」
「やったラッキー……って、それじゃ意味がないんだよ。僕、捕まっちゃうじゃん。冤罪だよ」
「冤罪じゃないです。現行犯です」
「冤罪ですぅー」
「現行犯です」
なんとか説得を試みる。
ううむ、とりつく島もない。
だがしかし、この場には幸か不幸か僕たち二人以外に誰もいないし、従って僕の名誉を守れる人間は僕しかいないのだ。
孤軍奮闘。
一人舞台。
四面楚歌。
彼女にしたところで味方がいないのは同じことだが、でもだからこそ、僕は彼女に争うことの無意味さを、言い争うことの醜さを説かなければいけないと思う。これはもう義務だ。使命だ。天命なのだ。
彼女の成長を促すことで、僕自身も救われる。
おいおい、なんて良くできた仕組みなんだ。これがwinwinの関係というやつだろうか。
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