紫あばばば

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 何をトチ狂ったか知りませんが、この時の私は隣家のドアの隙間から漏れているご家庭の灯りに吸い寄せられる様に、隣家に侵入したのです。  このアパートの部屋数は2つなので、中を探るには苦労しない筈です。律儀に靴を脱いで整えて玄関に置く間にそんな事を考えてました。  えー……結果から言いますと、めぼしい物は何もありませんでした。2部屋には特に家具が存在しません。リビングにはこたつとテレビ。そしてこたつの上にはみかんが転がっています。本当にあるのはそれだけ。ここまでやって収穫無しは負けた気がします。みかんでも食って帰ろうか、とみかんに手を伸ばしたところで隣家の家族の声と足音が聞こえてきました。 「――今日のお夕飯はなに?」 「今日はカレーですよ」 「やったーカレーだー!!」  ヤヴァイ。ここまで帰ってくるのが早いなんて予想外。パニクる私の脳裏で小学生が言っていた事が再生されました。『紫ババアは鏡を行き来してワープする』とか言ってた気がします。もしかして今回もワープしたのでしょうか!? 便利で良いですね。私もワープしたいです。どうする!! もう玄関前まで来てる気配がします。隠れる場所はないかと周りを探せば、隠れるのに丁度いい感じの押入れが!! 戸を引いて中に入ると、目の前にものっそい数の目がありました。それ等は暗闇の中に浮いている様で私の目には不気味に映りました。 「ひぃ」  私の小さな悲鳴も、私ごと暗闇に吸収されてしまいました。  そして暗闇に入る瞬間、とんでもない事に気付いてしまったのだ!! 靴玄関に置きっぱなし!! これのせいで隠れてもバレちゃう!! と。今はバレるより酷い目に合ってる気がします。
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