1人が本棚に入れています
本棚に追加
赤い眼の子が腕を引く。私の体は赤眼の子に近づいていきます。徐々に徐々に真っ赤なお口が近づきます。もうすぐ私は短い人生の幕をひっそりと下ろすでしょう。
……嫌。死ぬのは嫌。死ぬのは嫌です!!
「――ぁあああああああああ」
喉を抑えられているので、叫び声はかすれてとても人間の出す声とは思えません。でもこの声を出しているのは私。
私は叫びながら利き腕である右腕を赤い眼のこの赤い口に突っ込みます。ガチン。歯と歯が噛み合う音がすると同時に、私の拳の感覚が消えました。
赤い眼の子と私との間の距離が短くなったせいか、私の腕はまだまだ届きます。あのシュレッターの様な、溶鉱炉の様な口に届きます。赤い眼の子が歯を開いた瞬間にまた口の奥に腕を突っ込みます。腕が肩のあたりまで口の中に入ると、流石に赤い眼の子も私の首を絞めるのを止めました。腕を突っ込みすぎたのか、赤い眼の子は表情を歪めて苦しそうな顔をしています。息ができないのか分かりませんが、すぐに私の腕は噛みちぎられました。
「あああああああああああああああ」
腕を噛み切られてから私はその場から逃げました。赤い眼の子から逃げました。血が大量に出る右腕の跡を抑えて逃げます。移動しながら着ていたYシャツを腕に巻きつけて止血もしました。このまま私は何処へ行こうとしているのでしょうか?
自分が歩いているのか走っているのか、息をしているのかしてないのか、泣いているのか泣いていないのか、腕や足が痛いのか痛くないのか、声を出しているのか出していないのか。何も何もわかりません。ただただあの子が来ないところへ。私が考えていたのはそれだけです。
最初のコメントを投稿しよう!