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辺り一面に広がる暗闇の中、冷えた空気が肌をなで体内をゆるりと冷やす感覚が心地良い。
この『悪魔の通り道』は水で地面が出来ていて、少し動くだけで揺れ広い波紋が広がる。俺たちは人間でないから沈むこともなければ濡れることもない。辺りが暗く障害物も何もないから、広い水面はただ足場として存在するだけだ。
ふと、少し距離をあけた先に淡い光があるのに気づいた。それは小さな子供で、小さな背中には真っ白な翼が生えている。
『天使』だ。
天使は水面にしゃがみ込んで、両手で顔を覆っている。
微かに聞こえる声は震えていて、嗚咽を押さえているようだ。
「う……ぅく…………」
すん、と鼻をすすってはまた息を吐いて。嗚咽は押さえきれていない。溢れ出す滴が水面に触れて、幾つも波紋を描いている。
「怖い…………」
誰に言っているわけでもないだろう。俺の存在にも気付いていないあたり、それは本当にただの呟きだ。
泣いている理由を聞いてみるかと思うも、この静寂の中で声を出すのも躊躇われ、とりあえず俺は、真っ白な天使の頭を撫でてみた。
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