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「!?」
いきなり触れたからか、天使が勢いよく顔を上げた。
「!」
涙が流れた頬は淡く赤いのに、泣きはらした目は蒼い。
深く澄んだ、深海のような目。
天使ゆえか子供ゆえか、ずいぶん綺麗な目をしている。
「だれ?」
目に不安を滲ませたまま震える声で問う。隠す必要もないから素直に「悪魔だ」と答えれば、何を思ったのか小さく狭い肩がびくりと揺れ、驚きで引っ込んだ感情がまた泣きそうになっていく。
天使と悪魔。種族に違いはあれど目に見える姿は人間と変わらない。悪魔である俺としては天使相手に思うことはないけれど、悪魔という種族に対して好印象を持つ者は滅多にいないし、幼いうちに子供に警戒心を持たせる者だって多い。だからこの天使も、恐怖心はあるのだろう。
「何でこんな所にいる?」
「………わからない」
天使は気付いたらここにいたのだと言って俯く。下げた視線の先に真っ暗な水面があり、どこまでも暗い水に恐怖を感じたのかじわりと堪えたものがまた滲みだしてきた。
「……………っ」
つぅ、と涙が頬を伝って、落ちる。
泣くなんて勿体ない。
笑ってるほうがきっと可愛い。
「ねぇ、帰りたい?」
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