―終章―

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 アゲハが本当の姿と偽り好んで使っていた、泣き黒子の女性の姿。おそらくは、彼女が憧れるもっとも美しい姿であったのであろうその姿で探知すると、ピックアップされたのは二百人を超えるアゲハ。それが探知系の言技対策であることは明白であり、本体は別の姿で何処かに身を隠していることも容易に想像がつく。何せ彼女は七之侍に追われていたのだから。  叶救出の際に天吾はアゲハがビルから出るのを新に確認させてから突入していたが、それはあくまで“この街にいるアゲハ”の動きを探知させたに過ぎない。  戦うリスクは大きい上に、勝利しても得られるものはほぼゼロに等しい。加えて命懸けで倒した相手は偽物なのだから、笑えない冗談である。 結局大介も拳も叶も育も、松ランクという圧倒的な力に踊らされていたに過ぎなかったのだ。そんな強大な力をものともせずに倒した七之侍もまた、松ランカーの集まり。人類の最高峰である松ランクの実力は、未だに底が知れない。 「ということは……瀬野がぶっ飛ばしたのは罪のない一般人ってことか?」  拳が何気なく発した一言に、大介は青ざめる。怒りに身を任せて殴り飛ばしたのが善良な一般人であるならば、それは空回りにもほどがある。 「いいや、安心しなよ瀬野さん」  本棚と本棚の間から現れたのは、剣岳天吾。手元には『世界の武器全集』という物騒な本が見える。 「キミがぶっ飛ばしたのはクズだよ。京花院アゲハが幻覚を被せた人間は、犯罪者ばかりだ。そこらにいる人間を利用すればすぐ行方不明の騒ぎになるからね。その点、身を隠すように生きている犯罪者のクズならその必要はない。ホームレスなんかも交じっていたようだけど、少なくともキミが殴ったのは犯罪者だ」 「何だよ。わざわざ調べてくれたのか?」 「そりゃあ調べるよ」天吾は冷めた目で大介を見据える。「善良な一般人を殴ったということだったなら、キミを殺す理由にできるだろう?」  桜ランクである大介が形はどうあれ一般人を傷付けたのならば、確かにフェイルの考えが変わる可能性はゼロではない。天吾が情報を集めたのは、あくまで大介を追い込む材料が出てくるかもしれないという理由からである。
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