―終章―

2/10
13374人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
『次のニュースです。昨日未明、詐欺の疑いで逮捕状の出ていた京花院アゲハ容疑者(35)の身柄を七之侍が確保しました。同容疑者はランク松ノ下の“胡蝶の夢”という幻覚を見せる言技を有しており、自身の偽物を二百人近く生み出し捜査をかく乱していたということです。偽物の中には洗脳した人を自身に似せたという悪質なものも含まれ、警察では余罪も追及していく方針です。また、同容疑者が取り押さえられたことにより言技の効力が切れ、全国のあらゆる箇所で人や建物が消滅したという報告が相次いでいます。現在確認されているだけでも人で三百二十一人、建物で五十六棟、動物で二十九匹の消失が確認されております。思い当たる節のある方は、現在表示されている特設ダイヤルまで情報の提供をよろしくお願いいたします。では、次のニュースです』  目的のニュースが終わったところで、きずなはワンセグを切りスマートフォンを腰回りの専用ベルトへと戻した。放課後の図書室にて、一同は揃い険しい表情を浮かべた。グラウンドの方からは、野球部の掛け声が小さく聞こえてくる。 「えっと、瀬野君が見た京花院さんの本当の姿というのは、さっきのニュースに出てた人とは違うんですよね?」 「……ああ、別人だ」  照子の問いかけに、大介は車で連行されるアゲハの映像を思い返しながら答える。太り気味で天然パーマというその姿は、大介が見た厚化粧の女性とは似ても似つかない。 「つーか、七之侍が確保したって言ってる時点で違うのは明白だよな。瀬野っちがぶっ飛ばしたのが本物なら、今頃勇敢な高校生として取材陣に取り囲まれてんぜ」 「整理すると、大介君と拳君が倒したのはニュースで言っていた“洗脳した人を自身に似せた偽物”で、本物の京花院アゲハはその後で七之侍に確保されたということになるね。なるよ。なるだろう」  シャギーの推測に異論を唱える者はいなかった。事の顛末を知り、大介は戦いへと赴く前に屋上で天吾に言われた意味深な言葉を思い出す。 『戦ったところで得るものは少ないぞ。キミが考えている以上にね』  その言葉の裏には、今回の真相が隠されていたのだろう。天吾の仲間であるフェイル所属の男の子・見崎新の言技“天に眼”でアゲハを探知した段階で、彼は気付いていたのだ。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!