―終章―

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「そんなこといっちゃ駄目でしょテンゴー!」と、きずながプンスカ怒っている。そんな彼女にたじたじな様子を見ていると、大介は本当にそれだけのために情報をかき集めたのだろうかと思ってしまうのだ。  ひょっとすると、自分のために収集してくれたのではないか。――その考えは、胸の内に留めておいた。 「ところできずな、委員長は大丈夫なのか? 昨日も今日も欠席だったけど」  天吾が本を借り図書室を去った後に、大介がきずなに問いかけた。赤髪少女は「だいじょーぶだよー」と呑気に答える。 「今日も本当は休みじゃないの。サボりだよ」 「サボり!? あの真面目な委員長が!?」 「真面目だからこそだよ。育ちゃんは今日一日、デパートでタダ働き。迷惑をかけたお詫びなんだって」  迷惑とは、宝飾品の窃盗未遂と警備員を二人蹴り倒したことである。このことはきずなと照子しか知らないので話して聞かせると、男子一同は震え上がっていた。特に大介はドラゴンテイル時代に戻った育の全力を体感しているので、膝が笑っている。正直今回の戦いで負ったダメージは、アゲハの偽物にやられたものよりも育にやられたものの方が大きかったのだ。 「フンッ、確かに九頭龍坂らしいな。ハードボイルドだ」 「髪も黒く染め直したし、もう心配ないよ」 「心配ない……ね」  果たして本当にそうだろうかと、大介は疑問を抱く。あれだけのことがあったあとで、育は明日から普通に登校していつも通りに生活することができるのだろうか。当然できる限りのフォローはするつもりであるが、やはり不安は尽きない。  話し合いはお開きとなり、一同は図書室を後にする。大介はその最後部を歩きながら、目前を行く叶に目を止めた。育も心配であるが、叶のことも心配である。一度は火傷痕が消えたその顔には再び包帯が巻かれ、これまで通りに戻っている。  それはどのみち消えてしまう幻想であった。しかし、その素敵な幻を打ち砕いたのは他でもない大介である。加えて彼は、育に対しその罪を背負っていくと言い切った。目を逸らすことはできない。勿論、逸らす気などないのだが。 「叶、ちょっといいか?」 「なぁに?」  大介に呼ばれた叶は、笑顔で首を傾げる。他の一同は大介の目を見て自分達はお邪魔だと感じたようで、そのまま歩を進め廊下の角を曲がっていった。
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