―終章―

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「お前ら何盗み聞きしてんだコラァァァッ!」 「オースケが来たっ! 逃っげろー!」  盗聴していた仲間達を追い駆け、大介はドタバタと廊下を駆けていく。一人残された叶は、緊張から解放され両手で胸を押さえる。バクバクと激しく脈打っている心臓は、まだしばらく収まりそうにない。 「あーあ……私、生きてるなぁ」  あまりにも心臓がうるさいので、そんな言葉が叶の口から漏れた。孤独であった過去とは違う。自分は今、こんなにも生きている。ならば、そう生き急ぐ必要もないだろう。  この気持ちは、もう少し温めていよう。心臓が落ち着いたのを確認してから、包帯少女は愛しい彼の後を追い駆け出した。  一方の大介は、仲間達を完全に見失っていた。 「チクショー。アイツら何処に逃げたんだよ」  周囲を見渡しきずなの赤髪や速人のヘルメット等の目印を探していると、携帯電話が音を鳴らした。短い着信音。メールの受信である。差出人は――九頭龍坂育。 「これは……!」  内容に目を通した大介は、その場で動けなくなる。  金属バットが白球を捉える音が遠くで響き、夏の放課後をより夏らしく演出していた。  ◇  体育館裏。そこは屋上と肩を並べる青春スポットであり、そこへ異性を呼び出すという行為と愛の告白は、イコールで結ばれていると言っても過言ではないであろう。  そして大介は、育にメールでその体育館裏へと呼び出された。 「どうしよう」  そんな情けない言葉が漏れる。勿論女子から告白されるというのは嬉しいことだ。育は魅力的な女性である。凛々しく肝が据わっており、胸も大きい。  しかしながら、大介は恋愛のド素人である。誰かの好意を受け止める器がまだ出来上がっていない。一体全体何をどうしたらよいのか見当も付かぬまま、大介は体育館の裏手へと回った。  そこでは、仲間達が全員揃っていた。大介は恥ずかしさで死にたくなる。 「よし、これで全員揃ったわね」  だが、生憎死ぬ暇はないようである。皆の前で堂々と仁王立ちしているのは、九頭龍坂育。黒に戻ったポニーテールを翻す彼女の姿は、いつも通りである。どうやら、デパートでのタダ働きは終えてきたようだ。我らが委員長が戻ってきたと、一同の表情に笑顔が零れる。
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