―序章―

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 闇夜の森の中で、見事に広がる夏の夜空。遥か上空では、この季節にしか見ることのできない星座達が激しく自己主張でもするかのように輝きを放っている。  地上では虫達が命を削りながら鳴き、夜行性の昆虫達は“飛んで火に入る夏の虫”の由来の如く、とある建物から漏れる光へと吸い寄せられていく。  そこに聳えるのは、教会。森を切り開いたような土地に建てられたそれは、見た者を幻かと錯覚させるほどの美しさを披露している。  しかし、おかしい。この教会は、大介と天吾による戦闘で破壊されたはずである。それがほんの一ヵ月ほどで元通りに修復できるものだろうか。  建物内部では、老若男女問わず多くの人々が聖堂の椅子に腰掛けていた。共通点は、皆が同じデザインの白を基調とした衣類に身を包み、頭からも布を被っている点が上げられる。彼ら彼女らは祭壇へ向け頭を深々と下げ、静まり返る教会内である人物が現れるのを今か今かと待ち焦がれていた。 「ようこそお集まりいただきました。世村教(セムラキョウ)信者の皆様」  声を発したのは、スーツを身に纏った若い男。信者達はゆっくりと顔を上げ、祭壇に立つ男へ目を向ける。藁にでも縋りたいとでもいうような、期待の眼差しを。 「おめでとうございます。皆様の日頃の行いが認められ、我らが神・世村七郎様が現世へ再びご光臨なされました。この教会を見てください。ここは今日の日中までは派手に破壊された跡地でしかなかった。それが今はこの通り! 七郎様が“教会が元通りに修復する”というありえないことを現実に変えてくださったのです!」  沸き起こるのはどよめきの声。確かに奇跡が起きているが、いくら世村七郎亡き後も彼を神と崇めてきた信者とはいえ、七郎が現世に現れたというのはそう簡単に信じることができないのも頷ける。他の上級言技使いによるものだと考えた方が妥当であろう。 「それで、七郎様は今何処に!?」 「落ち着いてください」  祭壇の男は尋ねてきた中年男性の信者を宥めると、にっこり微笑み説明を始めた。
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