13373人が本棚に入れています
本棚に追加
「せーのーくーん、あーそーぼー」
土曜日の朝早く、大介の部屋の前でそんな声が聞こえてきた。汗だくで気持ち悪い体を起こし、目覚まし時計を確認する。時刻はまだ午前七時であった。
風を取り込むために開け放たれた窓の外からは、何処かで鳴いているセミの声が聞こえてくる。まだ夏は始まって間もない。じきにセミも増えもっと喧しくなるのだろうなと考えながら、大介は物干し竿にぶら下げている風鈴をぼんやりと眺めていた。
「せーのーくーん、あーそーぼー」
再び玄関の方からそんな声が聞こえてきた。大介は半開きの目を擦り立ち上がると、ドアスコープを覗き来訪者の確認をした。
シャギー、理将、拳、速人。いつもの男連中である。大介は鍵を開け、寝起きの酷い顔を覗かせた。
「何だよお前ら。こんな朝早くから」
「おはよう。こんにちは。こんばんは」
「それ三段活用じゃねーぞ」
今朝も大介のツッコミは好調である。ここまで来てもらっておいて追い返すのも何なので、大介は四人を中へと招き入れた。
「適当に座ってくれ。今麦茶入れるから」
「しっかし、あっちーなこの部屋は。クーラーないのかよ瀬野っちー」
「あれば俺だってこんな格好してねーよ」
キッチンに立つ大介は、タンクトップにトランクスというだらしのない格好をしていた。そんな彼は手際よく麦茶を人数分のコップに注ぐと、それをお盆に乗せてちゃぶ台へと移動する。
「ほらよ。風切はストロー付きな」
「わかっているではないか瀬野。ハードボイルドだ」
速人は麦茶を受け取ると、フルフェイスヘルメットを少しだけ浮かせてストローで麦茶を啜る。ただでさえ暑苦しいのだから取ってしまえばいいと周囲は思っているのだが、速人は意地でも外さないのである。
彼らが大介を尋ねてくるのは、珍しいことではない。連絡もなしに現れることはよくあるのだが、それでも休日のこの時間帯は非常識である。
「あんまり騒ぐなよお前ら。下で叶がまだ寝てるかもしれねーんだから」
「おーおーすっかり彼氏面ですなー瀬野っち」
「羨ましい限りだな。限りだね。限りだよ」
「だから違うって言ってんだろ。好き勝手言ってんじゃねーよ。ったく」
最初のコメントを投稿しよう!