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ここで大介は、唯一一人だけ麦茶に手を付けていない大山拳に気付く。
「どうした大山、飲まないのか? つーか、今日はやけに静かだな」
大介の言葉に特別反応を見せることなく、拳はまるで初めて彼氏の部屋を訪れた女子高生の如くモジモジとしている。オッサンのような見た目の男が恥じらいを見せている光景というものは、中々に気持ちが悪かった。
「何だ? 大山はどうかしたのか?」
「それが、オレ達もまだ何も聞いていないのだ」
「僕らは相談があると朝早くから呼び出されたんだが」
「まだなーんも聞いてねーの。いい加減教えてくれよ大山っち」
「……ああ、そうだな」
拳は覚悟を決めたようで、モジモジとした動きを止めるとちゃぶ台を挟んで友人達と向き合った。景気付けに麦茶を一気に飲み干すと、空のコップを置き相談内容を白状した。
「ウォレは、恋をしてしまった!」
気持ち程度の涼しさがある夏の朝。オッサンのような少年が吐いた相談内容を祝福するかのように、ベランダで風鈴が優しく揺れ音を奏でる。
「おめでとう」
「やったな」
「ファイト」
「頑張って」
「適当に励ますだけで終わらそうとしないでくれよッ!」
一世一代の相談を早々に打ち切られそうになった拳は、慌てて仲間達を引き留める。
「つってもなー。そういう相談はきずなっちの方が頼りになるって」
「わかってるけどよぉ、きずなは委員長のことで大変だろうし、相談しづらくて」
「まあ、確かにな」
同意して、大介は昨日のことを思い出す。
無断欠席という委員長としての禁忌を犯した次の日、育は平然と登校してきた。彼女が教室に入ってきた時、クラス中が戦慄に包まれる。
無理もない。育のポニーテールが金色に染まっていたのだから。
「僕らはクラスが違うから金髪委員長を見ていないんだが、不良に戻ってしまったということかい。ことかな。ことなのか」
「どうだろうな。ホームルームが始まった途端先生に連れていかれて早退しちまったから、色々とわからず終いだ」
「つーかさ、髪の色で言えば俺も金髪だぜ? しかもピアスまで付けてるし。シャギーっちは茶髪だし、きずなっちに至っては赤髪だぞ? 何で委員長が金髪にしたら職員室に連れていかれるんだ?」
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