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「あの……飛火夏虫さんなんですよね?」
「あ、えと、その……そ、そうだけど」
拳は思わず嘘を付いてしまった。理由は目前の少女が期待していたということも挙げられるが、一番の理由はそう認めた方が好意的に接してくれると思ったからである。要するに、下心が出てしまったのだ。
「やっぱり! 噂はあちこちで聞いてます! わー、助けてもらっちゃった。聞いてた通り、すっごく強そうな方ですね!」
「いや、その……そ、それほどでも」
なははと力なく笑う拳の頭の中は、罪悪感でいっぱいであった。しかし、今更嘘ですとは言えない。
「あ、そうだっ!」美少女は笑顔で手を合わせる。「是非お礼をしたいので、また明日会えませんか?」
まさかの提案に、拳はうろたえるばかりでまともに返事もできない。
「土曜日でお休みですけど、飛火夏虫さんは何か予定があるんですか?」
「なっ、何もないけど」
「じゃあ、決まりですね。明日の朝十時に駅前広場で待ってます。あ、希々は角折希々(ツノオリキキ)っていいます。中学三年生です。それじゃあ、楽しみにしてますねっ!」
積極的に言いたいことだけを伝えると、希々は上機嫌で去っていった。残された拳は、その後二時間ほど呆然と立ち尽くしていたそうだ。
◇
「ロリコン」
拳の話を聞き終えた大介達四人の声が、見事にハモった。
「何でそうなんだよ!? 年齢差一歳でロリコンってのはおかしいだろ!」
「いやいや、大山っちの見た目ならロリコンの定義は成立するって」
「まさかお前、きずなもそういう目で見てたんじゃねーだろうな?」
「大介君。きずなをロリ扱いすると怒られるぞ。怒られるよ。怒られるだろう」
「フッ、デート中に何回職務質問されるか見ものだな」
ボロクソに扱き下ろされ、拳は力なく項垂れる。
「まず、嘘はマズイっしょ。どうすんだよ大山っち」
「ウォレだってわかってるけど……スマン瀬野」
「俺に謝ってどうすんだよ」
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