―其ノ参―

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 とりあえず本物の飛火夏虫に謝罪し、拳は溜息を落とす。罪悪感に押し潰されそうな拳が流石に可哀想になったらしく、シャギーが 助け舟を出した。 「嘘をいつ白状するのかは置いておくとして、取り急ぎデートの対策を決めるのが先決じゃないかな?」 「や、社木……」  素晴らしき友情に、拳は思わず目頭を熱くする。 「まず第一に、その服装はないんじゃねーの?」  理将の指摘には、他の皆も納得であった。何故ならば、拳の服装は休日であるにも関わらず制服であったからである。 「服か。でも、ウォレの体に合う服ってあんま売ってないんだよな。他にも直した方がいいこととかあったら教えてくれ!」 「髭剃って眉整えろ。あと、髪形もむさ苦しい」 「シャワー浴びた方がいいと思うよ。臭いから」 「学生証は常に携帯しておくことだな。大人だと疑われた時に有効だ」 「喋り方も気を付けろよー。オッサン臭さが際立つ」  またもやボロクソに言われ、拳は挫けそうになる。だが、これは仲間からの愛の鞭であると拳は解釈した。仲間だからこそ、本気の意見を聞くことができる。そして、仲間だからこそ頼ることができる。 「わかった。時間までに全部直す! だから、協力してくれ!」  拳の頼みを、一同は笑顔で承諾した。  大山拳のデート作戦、開始である。  ◇  デパートの宝石売り場という場所は、あまり人気がないものである。ここも例外ではないようで、客は女性一人のみであった。彼女はTシャツにデニムという格好で、口にはマスクを付け、キャップを被った頭からは金色のポニーテールが伸びている。  九頭龍坂育の視界に広がるのは、薄いガラス一枚を挟んで陳列されている宝飾品の数々。ガラスを叩き割るのは簡単なことだ。そして中身を一掴みするだけで、目を見張る額の貢ぎ物が手に入る。  確かに、アゲハから強盗は駄目だと言われている。しかし、成功したならば話は別ではないだろうか。捕まらなければいいのだ。ヘマをせず逃げ切ればいいだけの話。そんな考えが、彼女の脳内で渦巻く。  徐々に理性が薄れていく。冷房の効いた店内であるにも関わらず、育の額は汗で濡れていた。喉が渇き、手足が小刻みに震える。視界も歪んで見えてきた。それほどのプレッシャーを受けても尚、育は決意を実行に移す。
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