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周囲を見渡し、誰も見ていないことを確認してから育は硬く握った拳を振り上げた。
「ッ!?」
その手を、誰かに捕まれる。驚いて振り返ると、そこには自分と同じような変装をしているきずなが立っていた。
「育ちゃん、今何しようとしてたの?」
「くっ!」
育はきずなの手を振り解いて駆け出した。そこへすかさず「ここは通しません!」と両手を広げた照子が立ちはだかる。だが、そのバリケードはあっさりと突破されてしまった。
「追うよテルちゃん!」
「はっ、はいぃ」
きずなと照子はすぐさま育を追い始めた。宝石売り場を出た育は階段を三段飛ばしで軽快に下りていく。運動能力では敵わない二人が育を見失うのは、時間の問題であるかのように思えた。
しかし、きずなも身体能力に差があることなど承知している。彼女は腰に装着した専用の携帯電話ホルダーからピンク色の折りたたみ式を取り出し電話をかけた。
階段を一気に駆け下りた育は、食品売り場の横を颯爽と駆け抜けて出口へと向かう。その行く手に、警備員が二人立ちはだかった。
宝石売り場からいきなり駆け出した自分を怪しいと思ったのだろうかと育は憶測を立てる。だが、それにしては反応が早すぎる。ここまで考えたところで、育は確信した。これは後方より追ってくる綱刈きずなの仕業であると。
このデパートの警備員とたまたま友達であった。それはきずなに限りよくあることである。あとは育が逃げる方向にいる警備員に電話をかければいい。そっちに向かっていく金髪ポニーテールを捕まえてほしいと。
屈強な男二人が、女子高生を捕らえにかかる。相手が力ずくでくるならば、育もそれ相応の手段で応えるまでだ。今きずなに捕まることだけは避けたい。決めたはずの覚悟が揺らいでしまいそうだから。彼女に説き伏せられ、願いを叶えてもらうという考えを改めさせられてしまいそうだから。
掴みかかる男の手をひらりとかわし、育は膝蹴りを腹部に叩き込む。崩れ落ちる同僚を見て、もう一人の警備員は相手がただの女子高生ではないと気を引き締めた。
男が手に取ったのは、警棒。暴力に打って出られた以上は、相手が女性とはいえど暴力で応える他ない。警備員が警棒を横一線に振るう。だが、それは空振りに終わった。
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