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言葉で表すのは難しいが、とりあえず嫌な気分だということは確かだった。
ここまで気分が悪くなったのはいつぶりかと溜め息をつく。
知らず、煙草に手が伸びた。
今日は1人でいたい。誰にも邪魔されず、静かに1日を過ごしたい。市中見回りは総 悟に任せてしまおうか。
「土 方さん、見回り行かないんですかィ?」
「どうしてこういう時に限って真面目なんだお前」
そんなことを考えながら土 方が筆を走らせたところに、ひょっこりと姿を現したのは沖 田だった。
「そんな、俺がいつもは不真面目みたいな言い方止めて下せェ」
「みたいじゃなくて実際そうだろ」
「ハハ、まぁね」
笑う沖 田の口からコロン、という音がした途端、土 方の眉がピクリと動く。
「テメー何食ってやがる」
「? ああ、これのことですか?」
べ、と出された沖 田の舌には、ピンク色の小さな飴玉が乗っていた。土 方は口から煙草を抜く。
「このくらい勘弁して下せェ」
「匂いが甘ったるいんだよ」
「苦ェ飴なんて無いでしょうが」
「じゃあさっさと部屋出てけ」
「だから見回り行きましょうよ。せっかく俺が来たのに来ないんですか」
「なんだテメーその言い方は」
何様だ、と語気を強めた土 方に、沖 田が笑みを零す。ここで笑えるのは、土 方が本気で怒っていないことを分かっているから。
「ほーらっ、気分転換ですよ、気分転換」
「オイっ、総 悟放せ!」
無理矢理腕を引かれ、縁側に連れ出された土 方は、沖 田の後ろを歩く。
「……空気悪いところにいたって、嫌なことは忘れられやせんよ」
静かな沖 田の言葉に、土 方は息を飲む。
何言ってんだコイツ。嫌なこと? 俺がいつそんな話をした。
お前、何か変なこと考えてるだろ。
何も悟られていなければそれに越したことはない。けれど、嫌な予感がしてたまらなかった。
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