当惑の瞳

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   動けなかった。  教室にいたのに、はっと気付けば黒いバイクの後ろに乗せられていた。  自分がどういう状況にあるのかは、もっと前に判っていたのかも知れない。  だが、紗希の意識はそれを認めることを拒否していた。  会うことすら避けたかったのに、バイクから振り落とされることを恐れて、目の前の人物に自分からしがみついているなど。  紗希にとって、それは簡単に受け入れられるような現実ではなかった。  何より、自分の平常心の行方が判らなかった。  バイクのエンジン音は凄まじいもので、そこに乗せられていると他の音が何ひとつ聴こえない。  普段、無意識に音というものにどれだけ頼っているかが判る。  目を閉じてしまえば、何に引っ張られているのかと思うような強風が身体に当たる。 .
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