戦慄の聖夜<イヴ>

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「ゴホッ、ゴホッ! なーに、この湿っぽい場所は? 全く、体に悪そうだわ!」  時刻は夕暮れ刻。奇妙な空間に迷い込んだ少女は、咳き込みながらきゃんきゃんと高慢ちきな声をあげていた。  そこは、林の中にある古城らしき建物。誰かが生活しているのか、床には絨毯が敷いてあるし、椅子やランプ、本などの日用品が散乱。それに壁には、華美な縁のついた楕円形の大きな鏡が掛かっている。 「どうやったら出られるのかしら? 早く帰って美味しいケーキを食べたいのに!」  苛立ち八割、戸惑い二割といった具合の声を漏らす少女の名は、リシェル・シャトーダルジャン。赤毛の縦ロールヘアがチャームポイントな十一歳。上等な毛で織られた上着と、バレリーナを思わせるフリル付きのシルクスカートに、家柄の良さが滲み出ている。  クリスマスイブの今日は、嗜みであるピアノの発表会のために、街中へ出掛けてきたのだ。家に帰れば、プレゼントとケーキが待っている。それを楽しみにしていたのに、何故、こんな場所に迷い込んだのか――。そんな風に思い始めたら、苛立ちの方がますます大きくなっていく。  その時、空気が澱んだのをリシェルは感じた。いや元々空気は良くないと思っていたが、何か不吉な気配を体が感じ取ったのだ。  ふと、カバンの取っ手を握っていたはずの右手に違和感。ぎこちない目の動きで右手を見下ろすと、その違和感が錯覚でない事が分かった。 「何よコレ! かわいくない!」 カバンの代わりに掴んでいたそれは、杖。頭にドクロの付いた、グロテスクな。 「いらない! こんなのいらない!」 捨ててしまおうとするが、ドクロの杖を握ったままの右手が開かない。ならばと腕を激しく振っても、やはりダメ。 「何なのよ……」
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