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目を瞑って考え込む僕の思考を断ち切るように、雨音に混じって違う音が耳に入り込んできた。
鮮明に響く聞き覚えのある音。
僕の耳が確かならばそれは、誰かが近づいてくる靴の音、だ。
誰かがこのバス停へと歩んできている。
「隣、いいですか?」
柔らかな女性の声。
ゆっくりと瞳を開き、声の主を見た。
目の前にいる人は僕を見た途端、目を丸くした。
気付けば鼓動が高鳴っている。
五年が経過しているというのに僕の頭の奥底にはしっかりと彼女の記憶が保存されていた。
そう、目の前には確かに「彼女」がいる。
彼女と僕は互いに何かを察したかのように笑い合った。
天気雨はまだ降り止む様子を見せず、静かに降り続く。
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