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ブランド店が建ち並ぶ通りを十分程歩き、俺が高校時代から使っていた時計と同じ高級ブランド店に入る。
「どれがいい?」
「お前の好きなヤツがいい」
「え? アンタがするんだろ。アンタの好きなヤツを選べよ」
ガラスケースの中に並ぶ時計を見ながら、ソイツの誕生日は一緒にいられるのだろうかと考えた。
その日に一緒にいる事は無理でも、近くにちゃんと会えるかどうかも分からない。
仕事は疎かに出来ないし、ソイツの学びの邪魔も出来ない。
一年後に留学を終えて帰国するまでは、学びに集中する為にソイツはこの街から出ないので、俺が此処に訪れるしか会う方法はない。
何をそんなに生き急いでいるんだという程、耐える事を忌み嫌い回り道をせずに生きてきた俺が、自ら遠回りをして我慢を楽しんでいる。
甘酸っぱくも胸が締め付けられる待ち望む夜を知り、やっと触れられる体温の優しい幸せを味わったからだ。
「なぁ、凄く早いけど、俺もお前の誕生日プレゼント買ってもいいか?」
「え、いいけど。何でだ?」
「お前の誕生日の近くに会えるって保証はないし、お前が気に入ったものをプレゼントしたいからな」
分かった、と頷くと俺と一緒にケースの中を覗くソイツ。
「どれが欲しい?」
「アンタが好きなヤツでいいよ」
「お前がするのに?」
肘で背中をつついて笑うと、ソイツも笑い返してくれる。
幼い頃から人前で笑うことを許されず、仕事でもポーカーフェイスを気取り滅多に表情を崩さない俺が、ソイツといると気付くと笑っている。
「好きなの決ったか?」
「おぅ。アンタは?」
「決めたよ」
「じゃあ、せーので差そうぜ」
「あぁ」
「「せーの……あっ」」
二人の指は、同じ時計を差して止まった。
あ、という口の形で固まったままの顔を見合わせて、くしゃりと破顔する。
こうして、お揃いの時計をプレゼントし合う事になった。
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