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「ひでぇ有り様だ」
隣に並び立つ同僚が哀れみさえ込めて呟く。
彼の視線はあちこちにうずくまる怪我人と、その手当てを行う者たちに向けられていた。
俺は彼とは逆の方を向いた。似たような光景だった。
しいて違うところを挙げるとすれば通りに向かって左側の方には仮設病院があるくらいだ。
だが定員オーバーなのだろう。怪我人はあちこちに寝転がったり、座り込んでいる。
俺の心のわだかまりが旺盛に自己主張する。
焦げくさい臭いも含めて、戦場では当たり前な光景であり、実際もう見慣れてしまった背景だ。
怪我人も、狂乱者も、そして死人も。
「これじゃあ強制退去も進まねぇよな」
彼の視線は未だに人々に向けられている。
時折、医者が使う魔法がちらちらと点滅する。
彼の視線に気づいた者が憎しみを込めて俺たちを睨み付ける。
若い男だった。
俺たちは敵の軍隊だ。憎む気持ちは分かる。
だからこそ辛い。
非文明的で退廃的な文化、それが魔法。
そう教えられて育ってきた。
彼らに文明の灯火を分け与えるのが俺たちの任務。そのはずだった……。
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