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そういえば、俺はあの同僚の兵士の名前を知らなかった。
通りすぎていく衛生兵と、衛生兵が担架で運ぶ同僚の亡骸。
敬礼をして見送ってやった。
そこでふと思い出してポケットから煙草を取り出した。
俺は吸わない。
同僚だったあいつが好んで吸っていた。
ライターと一緒に預かっていたのだった。
いつから持っていただろうか。彼とはいつから同じ部隊になっただろうか。仲間の入れ替わりが激しく、俺はいちいち覚えなかったのだろう。今になって後悔した。
煙草に火を点けた。
深く吸い込みすぎて、思わずむせる。
煙なんて硝煙だけで十分だ。
そう思いながらも捨てなかった。
今度は小さく吸い込み、吐き出す。
この煙草だけは吸いきるか。
もと来た道を戻る。
さっきまで敵だった男とすれ違った。
何かをささやかれたが、言葉の意味はわからない。
もう一度大きく煙を吸い込む。今度はむせなかった。
初めての煙草の味は苦かった。
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