145人が本棚に入れています
本棚に追加
/561ページ
相変わらず雛が距離を置くと釣れる状態は続いていた。今は川を挟んだ反対側で雛が様子を窺っている。
「……このくらいでいいかな」
たった今釣り上げた八ツ目鰻を竹篭に入れると、ミスティアはそう言った。手を洗い片付けを始めると、雛も終わりだと気付いたようでこちらに寄って来た。そして竹篭を覗くと、口だけ「うわぁ……」と動かした。
「グロテスク……」
「そればっかじゃん」
「竹篭いっぱいだと皆そう思いそうだけど……」
尻すぼみに雛はそういうと、再び竹篭を覗いて「ごめんね」と呟いた。
「……何してるの?」
「失礼な事言ったから謝ったの」
「……へぇ」
また不思議そうに雛を見る。きっと神様は色々あるのだろう。ミスティアはそう考えると、竹篭の蓋を閉めた。
「この後お店来る?せっかくだからサービスするよ」
「サービスは嬉しいけど……遠慮させてもらうわ」
「見たら食べれなくなったとか?」
首を横に振る雛だが、表情は苦笑いだ。もしかしたらそれも少しは理由にあるのかもしれない。
「私が行ったら、お店が厄くなるから……」
きっと先程近くにいた時の事を気にしているのだろう。ミスティアもそれを聞いて残念そうだが、何か浮かんだのか表情がパッと明るくなった。
「じゃあ出前するよ」
「え、いいの?」
「特別サービスだよ」
「……ならお願いしようかしら」
「はーい」
嬉しそうにミスティアが笑うと、雛も釣られて笑った。今までとは違う、満面の笑みだ。
「じゃあ4人分お願い出来る?」
「出来るけど、意外と食べるんだ」
「違うわよ。周りの人の分」
少し向きになって言う雛だが、ミスティアは笑って流した。忘れぬようにとちゃんと手帳にメモを記すと、「あ」と短い声が聞こえた。
「雛の家知らないんだけど」
「じゃあここで。呼んでくれれば来るから」
「近いの?」
雛は答えず笑顔を向けるだけだった。ミスティアは気にしない事にして、手帳をポケットにしまうと、雛に挨拶して飛び去った。雛も軽く手を振ると、待ち遠しそうに遠くなる後ろ姿を見送った。
END
最初のコメントを投稿しよう!