教える気持ち

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窓が全て開いているので、教室の中にも外の冷たい風が吹き込んでくる。掃除をしているので仕方無い事だが、子供からしたら寒いし面倒なので早く終わらせて帰りたかった事だろう。その気持ちを表すように、雑に並んだ机やまだ拭き残しのある黒板を見て、慧音は溜め息を吐いた。 「全く……もう少し真面目に出来ないのか……」 そうぼやきながら慧音は机を整える。引き摺ると畳が痛むので、少しずつずらしていく。その途中、落ちていた鉛筆を踏んだ拍子に短い悲鳴を上げた。 「あら痛そう」 その声に慧音は窓の方を見ると、咲夜が外からこちらを見ていた。手提げの鞄を持っているのを見ると、買い物にでも出てきたのだろう。慧音はまだ少し痛む足の裏を擦りながら床に座ると、踏んだ鉛筆を拾った。 「こんな小さな鉛筆でも痛いものだよ」 「なら踏んでも痛くないように靴を履けばいいじゃない」 「畳の上だぞ?」 「……そうだったわね」 見て解りそうな事だが、咲夜は失念していたのだろうか。窓から身を乗り出して教室の中を覗くと、「入ってもよくて?」と聞いた。 「ちゃんと玄関からならいいぞ」 「そんなな泥棒みたいな事しないわよ」 勿論、慧音は咲夜がそんな事するとは思っていないが、窓から身を乗り出してそう聞いたので、念の為聞いただけだ。不満そうな目を向けた咲夜だったが、玄関から教室に入って来た時にはそんな様子はなかった。普段と全く違う雰囲気に、興味深そうな感じだ。 「それで、何か用か?」 「特に無いわよ。油揚げの仕上がり待ちくらいかしら」 「なんだ、藍にでも買い占められたか?」 「えぇ」 冗談で言ったつもりが事実だった。しかし特別意外とは思わなかった。慧音はゆっくり立ち上がると、ポケットに拾った鉛筆を入れた。 「待ちついでに掃除手伝ってくか?」 「……そうね。行く場所もないし、そうするわ」 これには慧音が意外そうな表情を見せた。すると咲夜が何の事かと首を傾げる。しかし聞こうとはせず、鞄を教室の隅に置いた。
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