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 突然踏切が鳴り出した。  私が帰ろうか迷っている間に吉永君との距離は随分離れていたらしく、吉永君は踏切の向こう側にいた。急いで私も向こう側に行こうとしたが、手遅れだった。遮断機が降りて、電車が右から来るのがわかった。  私は電車が視界を遮る直前まで、踏切の先にいる吉永君を凝視した。  電車がホームにいる人達を乗せ、少し走り出したところで遮断機があがった。踏切の音が耳の奥に残って、乾いた空に木霊しているようだった。  電車が視界を遮る直前、私は確かに見た。駅へ行かず、道をまっすぐ進む吉永君の後ろ姿を。
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