26人が本棚に入れています
本棚に追加
「……以上、本日付けで魔王家直属書物庫司書官に任命する。ゼロ、前へ」
魔王直属の側近に名前を呼ばれて立ち上がると、静寂としていた雰囲気がざわめきはじめる。
『彼、中級魔族だろ?』
『元は傭兵だとか』
『……どんなコネ使ったんだか』
等々、誹謗中傷のヒソヒソ声が耳に入る。※格好いいだの、可愛いだのが前後に入っているが、ゼロには聞こえていない※
自分だって不思議なくらいだ。周囲は尚更不思議だと思う。
任命書を、受取る間にもヒソヒソと聞こえ、任命書をぼんやり見ていると、
「そんな顔をするもんじゃない」
と、目の前の側近がボソッとつぶやく。
「っ」
はっ、と顔を上げるとニコッと笑われた。
「魔王様が、貴方が適任だと仰られたのだから気にする事はない」
そう、言われた瞬間……
「ゼーロー☆」
突然の衝撃に押し倒された。
「……痛い……です」
胸の上で深紅の毛並みをしたちっちゃな獣がモフモフの尻尾を千切んばかりに振っている。
「僕の大事な書物庫をよろしくね☆ゼロ☆」
そう、このちっちゃなモフモフ獣が我らが魔王様なのだ。
ちっちゃいとは言うものの、年齢は遥か彼方に忘れてきた御方なのだが。
「はい、がんばりま」
「コラ!!離れなさい!魔王様!」
「やーだーよー!」
返事の途中で、側近が魔王様を引き離しにかかった為魔王様も離されまいと、ギューギューしがみついてきて、正直苦しい。
「はーなーれーなーさーいー!」
「イーヤーダって……
ぼんっ!!
言ってるだろーが!!」
音とともに長髪の男が現れ、人の重みを感じて余計苦しくなった。
「……(苦しい)」
「俺はゼロと一緒にいたいんだ!ゼロもそうだろ!?」
「え?」
突然魔王様が振り返りあまりの近さに驚いて何も言えなくなるのは俺だけじゃないハズ。
「なっ!?私だって、ゼロと一緒に!!」
側近も、ばっと自分を見た。
そして今まで、呆然と見ていた(見ているしかなかった)周囲も突然騒ぎ出した。
『魔王様!側近様それダメなやつです!!美味しすぎます!』
『hshs!!』
『魔王様!獣型に戻って下さい!!ゼロ様可愛かった』
その後も魔王様、側近の言い争いが続き、鼻血が出る者、卒倒する者が続出した。
「……俺、これから大丈夫か?」
そんな、本人が知らない所で大人気なゼロの話。
最初のコメントを投稿しよう!