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だから、それはきっと必然の出会いだった。
「言い値で買いなさい。
城の一つや二つ、売ってしまっても構わないわ」
『それ』はある日、私の興味を惹こうとした遠い異国の行商人が見せたものだった。
身につければ冥府の王に見染められ、二度と現世には戻れないと言われている。
曰くつきの、漆黒のドレス。
売り物ではないと渋る商人や、周囲の反対を押し切って、私はそれを高値で買った。
「ジャンヌ。本当に其れを着るつもりかい?」
「ええ、お兄様」
「曰くが本当かは解らないが、やめた方が良い」
「あら、どうして?
むしろ、私は曰くが本物でないと困るのよ」
私はドレスを抱えたまま、やんわりと兄に向って微笑みを向ける。
「お兄様、言っているしょう?
私は、世界に飽いているの」
コルセットを外すと、身に纏っているドレスがふわりと落ちる。
兄は、何も言わずにその場を立ち去って。
私は、彼がどんな表情をしていたのかも、解らなかった。
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