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…………
『前略
この度は青田様を私の館へお招きしたいと思います。
理由などありません。
つきましては、別紙記載の場所まで――』
あまりにふざけた内容の文を読んでいる途中、俺は一番下に書かれていた差出人の名前に目がいった。
そして驚愕する!!
「十和……輝欄!!」
そう、差出人の名前は十和輝欄となっていた。
そんな馬鹿な事があってたまるか!!
輝欄はもうこの世にはいない!! これはあの世からの手紙だとでも言うのか!?
いや、普通に考えて、何者かが輝欄の名前を騙っているのだろう。
「ふざけやがって……!!」
何処のどいつかは知らないが、殺意が湧いてくる。
しかし……
反面、淡い期待を抱いている自分もいた。
もしかしたら、輝欄は生きているのではないか……? 俺の妄想などではなく、本物の彼女が。
俺は彼女の亡骸をこの目で見た。だが、医学的知識の欠片も持ち合わせていない自分が、本当に見ただけで生死を確認できるのか?
通夜や葬儀が行われたそうだが、既に自失していた俺は参列していない。そこで、輝欄の遺体は確かに火葬されたのか?
考えれば考えるだけ馬鹿馬鹿しい疑問だ。
万に一つも輝欄が生きているという事はない。
だが、万に一つの可能性で、この手紙の差出人が本当に輝欄だったとしたら……
「俺は……
もう後悔したくない……」
何に対しての後悔か、自分でも分かっていなかった。
一年前、輝欄の死をただ見ているしか出来なかった事に対してか。
あるいは、輝欄の存在を妄想しながらも現実を思い知らされ絶望した事に対してか。
どちらにせよ、俺の心は揺れ動いていた。
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