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「茜香子(あかね かおるこ)さん。面会をしたいという方がいらっしゃいました。部屋にお通ししますね」
扉越しに女性が話し掛けてくる。そして、私が返事をする前に離れていってしまった。
それにしても、面会に来た人など初めてだった。
一週間前、私立虎青高校で起きた騒動の際、私は多量のドラッグを服薬させられた。
麻薬ゆえに当然、依存性がある。そのため、私は一週間前からどことも知れない施設に隔離されていた。
しかし、実際には隔離というより監禁に近いのではないだろうか。
お風呂やトイレといった設備は揃っているが、部屋からは一歩も出られない。
そして、誰とも会話出来ず、一日中何をする訳でもない。
一応、職員らしき人に頼めば本などを持って来てくれるが、そろそろ頭がおかしくなりそうだ。
だから、面会に来た人がいると聞いて、私は素直に嬉しく思ったのだった。
もしかしたら青田君かもしれない。そんな淡い期待すら浮かぶ。
本当に青田君だったら最初に何て言おうか。
「来るのが遅い」と文句を言おうか?
「来てくれてありがとう」と感謝を述べるべきか?
何にしても久し振りに人と会話出来る事に胸踊る気分だ。
そして、一週間の間、一度も開かれなかった扉が動く。
私はベットに座り、面会者を迎える。
入ってきたのは……
「失礼します。貴方とは初めてお会いしますね。
私は探偵(たんてい)と申します。以後、お見知り置きを、茜香子君」
完全に知らない人だった。
初対面の人に対して失礼かもしれないが、第一印象は『妖しい』だった。
帽子を目深に被り、表情が全く見えない。
夏という季節にも関わらず長袖を着込み、ぶかぶかの格好をしている。
そして、いやに耳に残るが低くも高くもない不気味な声。
顔、服装、体格、声などあらゆる外見からは年齢や性別までもが判別出来なかった。
そんな人間を見て、プラスの印象を抱く人はいないだろう。
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