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二人はアラガミがいないか
辺りを警戒しながら歩いた
季節は冬
気温は低く 空気は乾燥している
口元からは白い息があがっていた
二人はしばらく
なにも喋らずに歩いていた
もっとも、雪菜はつい先ほど母親を失ったばかりで
信じられない気持ちと これからどうしたらいいのかという不安が混じり、混乱していて
喋ることなど出来やしなかった
「…………」
コツコツ と足音だけが響く
アラガミはもうこの一帯には現れなかった
静かで、建物が崩れるよう音が遠くから常に聞こえてくる
「ここは…」
不意にアイシスが口を開く
「40年程前は、“東京都”と呼ばれていた。もっとも、アラガミはまだ出没しておらず、街と呼ばれた集落は多くの人で溢れていた。なんの恐怖にも怯えずに」
「……アイシスさん」
雪菜の声は震えていた
「なんだ」
「……なぜ、アラガミは生まれたのでしょうか」
「……」
アイシスはしばし考え
「…それは誰もわからない。人間が今まで争いを繰り返してきた“罰”だと言う人もいる」
雪菜はぐっと歯を食い縛る
「そんなの!!…理由になってません!何故昔の人が犯した過ちを、私たちが償なわなければならないんですか!!」
雪菜の頬に涙が伝う
「理由など求めたとこで進歩などない。悲しみに沈み延々と落ちていくだけだ。重要なのは今をどう生き延びるか、だろ」
「………」
雪菜は言い返せなかった
アイシスのいうことは間違ってはいなかった
「でも…でもっ…!!」
だが、それでも
人の悲しみ、憎しみは消えない
「少し黙って頭を冷やせ」
アイシスは雪菜の肩をそっと抱えた
「すみません…あたし…」
「謝るな、とにかく今は帰ろう。フェンリルへ」
二人はもう
フェンリルの近くまで来ていた
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